日本のITエンジニアの年収が低い理由は『IT企業勤め』が原因!?IT初心者向けにわかりやすく解説

BUSINESS IT・テクノロジー

現在日本のITエンジニアの年収は、アメリカのITエンジニアの半分以下と言われています。

もちろん物価の差もあるので、単純に「日本のITエンジニアの年収は低い!」と一概にはいえないですが、それでもこの『半分』以下という年収の差はかなり大きいと思う方も多いでしょう。

その影響もあってか、日本ではあまりエンジニア職に興味を持つ子供は少ないもののアメリカではエンジニア職は非常に人気があります。

またこの待遇の差が両国のIT業界の進歩にも少なからず影響しているのではないかとも思ってしまいます。

ちなみに家賃を考慮してどれくらいの差があるのかをサンフランシスコと東京でざっくり比較してみるとこのようになっています。

サンフランシスコ市内の2LDKの家賃相場が約50万円で、都内の場合は20万円程。

そして収入をサンフランシスコの場合は月収100万円、東京の場合は半分の50万円。

サンフランシスコは『100‐50=50万円』に対し、東京は『50‐20=30万円』

このように家賃を差し引いても月で20万円もの差があり、年間でみると200万円以上の差が出ている結果となります!

※それぞれの家賃はざっくり調べたものであり、また所得税等の税金は考慮しておりません。

これだけの差があると、誰が日本でITエンジニアを目指そうと思うのでしょうか?

今ではテレワークが当たり前になっており、出社しなくとも十分働ける環境になってきています。また海外在住で日本の企業に勤めている方も増えておりますので、より技術や環境が進歩すれば、わざわざ日本で働かなくとも『アメリカの仕事を日本で請ける』という働き方も普通になってくる可能も大いにあるでしょう。

特に他業種を見てもわかるように、優秀なエンジニアであればあるほどその傾向が強くなることは明白です。

そうなれば、優秀なエンジニアが日本ではいなくなってしまい、結果、日本はさらに世界から遅れてしまい、どんどん取り残されていってしまいます。

そうならないための解決策の一つには、やはり待遇面の向上・改善は必要不可欠でしょう。

ただ、「じゃあ、ITエンジニアの給料を上げましょう!」という訳にはいかないことも何となく分かると思います。

では、どうすればよいのか?まずそもそも、なぜここまで日本のITエンジニアの年収が低いのか?

解説していきます。

日本のITエンジニアの年収が低いのはIT企業に勤めているから?

タイトルにも書いたように、そう!日本のITエンジニアの年収が低い理由、それは日本のITエンジニアがIT企業に勤めているからです!

んんん…?と思う人もいるかもしれませんね。

理由にも繋がる重要な事ですので、理由の詳細を解説する前に、IT企業とそうでない会社の違いを簡単に解説しておきます。

IT企業の概念について

そもそもWebサービスなどITの技術を使ってサービスを私たちに提供している企業をIT企業と言うわけではありません。もちろんその中にIT企業もあるのはありますが、日本の場合は大抵IT企業ではありません

例を挙げると、自動車企業でAIやIoTというIT技術を駆使して自動運転をする車を製造している会社がありますが、これはIT企業ではなく自動車企業です。

かなりこの例は極端過ぎるかもしれませんが、こういった形でIT技術を使ってサービスを提供しているので、一見IT企業に見えるかもしれませんが、よくよく見ると実際はIT企業ではないというパターンは多々あります。ちなみにこういった企業を『エンドユーザー企業』と一般的には言います。

では、IT企業とは何か?

まずざっくり言うと、システムエンジニアやプログラマー、WebデザイナーなどのIT人材と言われる人たちがプログラミングやデザインなどを通し開発という行為によって収益を得ている企業。それがIT企業です。

聞いたことがあるかもしれませんが、SIerと言われるシステムインテグレーター企業(ITソリューションを提供する会社)や受託請負企業、SES企業などはIT企業に分類されます。

先ほどの自動車の例を元に言うと、自動運転の車を製造している自動車企業が自動運転に必要な技術を自社ではなく他社に依頼して開発してもらっている場合、この『他社』にあたる企業がIT企業になります。

そして、このIT企業に日本のITエンジニアは勤めているケースが圧倒的に多いのです。

逆にアメリカのITエンジニアは、エンドユーザー企業に勤める人の方が多いです。

なぜ日本のITエンジニアはIT企業に勤めるのか?

では、IT企業に勤めれば年収が低くなるのに日本のITエンジニアはなぜIT企業に勤めるのでしょうか?

それはITエンジニアの問題ではなく、日本のIT業界の構造にあります。

先ほどの自動車の例を絡めて話すと、基本的に日本では自動車という『自社製品』に対して自動運転という機能を持たせるために必要な『開発』は、他社に依頼するもしくは、他社に所属している優秀なエンジニアに派遣などで来てもらうパターンが一般的です。

正直自社のみで完結している企業は、日本では少ない傾向にあります。

最近では、エンドユーザー企業側でITエンジニアの採用を強化するなど傾向は昔に比べれば増えてきている傾向にはありますが、それでもまだまだIT企業で働くエンジニアの方が多いです。

要は、ITエンジニアを採用しているエンドユーザー企業は少なく且つ人気がありますので、優秀な人のみ通れる狭き門になっています。反対にIT企業は非常に多く、もちろんITエンジニアを採用するので広く緩い門になっています。

これによりITエンジニアはIT企業に勤めているのです。

ちなみに決して全てのIT企業が悪いという訳ではなく、逆にIT企業に勤めている方がエンドユーザー企業に勤めているより稼げるという場合も普通にあります。

ただ、これにより日本のITエンジニアの年収が下がっているのは事実です。

IT企業でしか働けない環境を生み出しているIT業界の構造

つまり日本のITエンジニアの年収が低い本当の理由であるこの構造とは何なのか?解説していきます。

IT業界の負と言われる多重下請け構造

日本のITエンジニアを低年収にしているその構造とは、多重下請け構造です。

これは、IT業界で働いている人の多くが知っている『IT業界の負』と言われる構造です。

多重下請け構造とは?

そもそも、多重下請け構造とは何なのか?解説していきます。

まずは下の図をご覧ください。

これは案件・仕事の流れを表した図になっています。

1番上にある企業は書いてある通りエンドユーザー企業で、自動運転の自動車を製造するために必要な自動運転機能の開発という案件・仕事を抱えている企業です。

ただ、その企業には自動運転機能を開発するリソースが自社に無いので、図のように他社に依頼をします。その依頼を最初に受けた企業を元請けと言います。

しかし、自動運転機能に必要な『AI』部分はその元請けとなった企業でも開発は出来ますが、その他の『IoT』や『センサー』に関わる部分の開発するためのリソースが足りません。

となるとさらに図のように別の企業に依頼が渡ります。

このように『2次請け⇒3次請け⇒4次請け・・・』と仕事が複数の企業を挟んで流れていく構造を多重下請け構造と言います。

実際に、5次請けという場合も普通にあります。

多重下請け構造については分かったと思いますが、なぜそれが低年収を招いているのかを解説していきます。

なぜ多重下請け構造になるとITエンジニアの年収は下がるのか?

この多重下請け構造は、単に仕事を依頼しているだけではありません。

元請け企業と2次請け企業、2次請け企業と3次請け企業というように、企業と企業の間では、『マージン』といういわば、仕事の紹介料が抜かれています

まあ企業同士というビジネスで『タダ』というのは中々無いでしょうから、当然と言えば当然です。

しかし、これが低年収の原因です。

もう少し具体的に数字を交えて説明します。エンドユーザー企業から元請け企業へは三人分の開発費用として300万円(100万円/人)で依頼がありました。

しかし元請け企業は、一人分は確保出来たが一人分足りないので、2次請け企業へ依頼をする必要があります。そこで元請け企業は紹介料として、残りの依頼金額である200万円から20%となる40万円を抜いて依頼をします。

2次請け企業は、元請け企業より二人分の開発費用として160万円(80万円/人)で依頼を受けましたが、2次請け企業では一人分しか確保できず、残り一人分をを3次請け企業へ依頼する必要が出てきます。

そこで2次請け企業は紹介料として、残りの金額である80万円から20%となる16万円を抜いて3次請け企業に依頼をします。

そして3次請け企業は、64万円で開発の依頼を請けることになります。

まとめると、元請け企業は100万円、2次請け企業は80万円、3次請け企業は64万円という結果になっています。

もちろん実際にはここからITエンジニアに支払われる給与は減るでしょうが、明確な差があることが分かったかと思います。

このように多重下請け構造によって発生する『マージン(紹介料)』により、日本のITエンジニアの年収は下がってしまっているのです。

そして残念なことに日本ではこの多重下請け構造が蔓延してしまっているのです。

多重下請け構造を生む原因は?

ではなぜ負の構造と言われる多重下請け構造が生まれるのか?そして無くならないのか?その理由を解説していきます。

雇用のリスク

まず一つは、雇用のリスクです。

社員を雇用するということは、パフォーマンスに関わらず決められた給料を払う必要がありますし、簡単にクビには出来ません。

その為、プロジェクトが上手くいかず中止になってもその人には給料を払い続けなければなりません。また場合によっては景気に左右されることもあるでしょう。

このように自社で社員として抱えることで、雇用のリスクが発生します。

しかし、他社に依頼してしまえば上手くいかなかったときに契約を終了させるというリスクヘッジができるメリットがあります。

このように雇用のリスクにより多重下請け構造は生まれています。

IT企業の増加

その他には、多重下請け構造を助長するかのようにIT企業、その中でも特にSES企業といわれる企業の増えているのは大きな理由でしょう。

SESとは、システムエンジニアリングサービスの略称で、簡単に言うとIT業界にある契約の一種です。

このSES企業は、ITエンジニアをリソースが足りていない企業に紹介するという業務をしているのですが、派遣企業ではないので2重派遣などのような法律はなく、ITエンジニアを紹介された企業は、また別の企業へ紹介することができます。

つまり多重下請け構造がより活性化される環境を生み出しているのです。

もちろん自社で社員を雇い、雇用のリスクを抱えながらITエンジニアを紹介するようなSES企業やエンドユーザー企業からのみ仕事を獲得してフリーランスエンジニアに紹介しているような元請け企業のような役割を担うSES企業など優良なSES企業もあり、全てが全て悪い訳ではありません。

ただ、あまりにもSES企業が増えすぎることで、ITエンジニアを抱えておらず且つ直接仕事の依頼を請けている訳でもない、ただITエンジニアや仕事という情報を横流しし『マージン(紹介料)』を受け取るだけのSES企業も多くあります。

こういったSES企業にとっては多重下請け構造は甘い蜜でしかなく、それにより助長されてしまっているのです。

SES企業の実態について知りたい方は、下記を参考にしてください。

多重下請け構造をなくすための解決策は?

日本とアメリカのITエンジニアの年収の差。また国力の差。これらの差を縮めるためにはこの多重下請け構造をなくす動きは欠かせないかもしれません。

では、どうすれば多重下請け構造はなくなるのか?『ITエンジニア』『企業』『国』の3つの視点で解説していきます。

多重下請け構造をなくすためにエンジニアが出来ること

ITエンジニア側が直接的に多重下請け構造をなくすことは難しいかもしれませんが、なくすためにもしくは、回避するために出来ることはあるでしょう。

それは単純に多重下請け構造に巻き込まれることを回避することです。

要は、勤める会社を選ぶときはしっかりと会社調べをする必要があります。

ただ、仕事が無ければ収入は得られないので、選びすぎて結局働けないとなる事は本末転倒にはなってしまいますが、選択肢が十分にあるのであれば、ネットや人脈を使いしっかりと会社調べをするのが良いかもしれません。

またフリーランスエンジニアという選択肢も一つあるでしょう。

先ほど多重下請け構造が無くならない原因でも解説しましたが、企業が社員を抱えるには雇用のリスクがあります。

ただフリーランスエンジニアであれば、雇用ではなく業務委託契約になりますので、企業側は雇用リスクを回避しつつ開発リソースを獲得することが出来ます。

現時点では日本でのフリーランスの立場は弱く、法律的にフリーランスを敬遠する企業も多いですが、アメリカでは労働人口の35%がフリーランスであり今もなお増加している傾向にありますので、日本でも同じ道をたどる可能性は大いにあり、そうなればフリーランスという立場の改善にも期待が持てます。

フリーランスエンジニアが増加し、多重下請け構造に入っている企業を介さず働くことがより柔軟に出来るようになれば、少しずつでも構造が改善されていくのではないでしょうか?

多重下請け構造を出来るだけ回避する事は、自身の報酬アップに影響しますし、日本のITエンジニアの平均年収アップにも影響します。

そして、それが多重下請け構造をなくしていくことへも繋がるでしょう。

多重下請け構造をなくすために企業が出来ること

多重下請け構造をなくすために企業側としても出来ることがあるでしょう。

単純に、エンドユーザー企業によるITエンジニアの自社採用を強化するということが一つあげられます。

ただ、企業の資金力にも関わることですし、リスクがつきまとうものですので全ての企業が対応でいる訳ではありませんが、企業努力という点ではぜひ行って欲しいことではあります。

またその他の出来ることとしては、エンドユーザー企業による派遣やフリーランスの活用を積極的に行うことも一つ挙げられます。

これであれば、企業側の雇用のリスクを避けつつも商流を介すことなくITエンジニアが働ける環境にすることが出来ます。

ただ、採用の強化や派遣・フリーランスの活用を強化するためには、人事などのHR部門の作業量は増加してしまいます。

また、ITエンジニア職の採用や活用となれば技術的な知識が必要不可欠になってきます。

そのためこれらを実施するために企業としては、HR部門における社内DXや技術人事と言われるITエンジニア職の知識が豊富な人事の活用など土台作りが前提となってくるでしょう。

日本のITエンジニアの年収の向上や多重下請け構造をなくすためには必要なことではありますので、企業側としての努力はお願いしたいところではあります。

また余談ではありますが、IT技術に詳しい人事である技術人事職は、今後重宝される時代になるかもしれません。

多重下請け構造をなくすために国がすべきこと

最後に、国として多重下請け構造をなくすためにできることというよりもすべき事があるでしょう。

大きく言うと法や制度の改善です。

その中でも二つ具体的にあげるとするのであれば、一つはSESビジネスの制限、もう一つはフリーランスに関わることです。

SESビジネスの制限とはどういうことかと言うと、派遣ビジネスのように、ビジネスを行うには免許を必要とし、さらには2重派遣禁止のような制限を作ることです。

現時点でSESビジネスを行うには何の免許も必要なく行うことが出来ます。それによりどんどんSES企業は増えている状況です。

さらに、多重下請け構造を助長する商流の間に入るだけの企業が多く存在しているように、SESであれば2重でも3重でも関係なく紹介が出来てしまいます。

これらの制限を掛けることで、多重下請け構造の緩和には大きく繋がるでしょう。

またもう一つのフリーランスに関わることについてどういうことかと言うと、現時点では、「法務上フリーランスは活用できない」という企業が多く存在します。

法律に詳しくはないため法務上という理由が何を指すのかはここでは明言は出来ませんが、何かしらの理由があり活用できない環境になってしまっています。

フリーランスも正社員の採用や派遣社員の活用のように、柔軟に対応できる法環境が整えられれば、エンドユーザー企業も気軽に直接フリーランスを活用しやすくなると思います。

そしてこれは多重下請け構造をなくすことにも繋がってくるのではないでしょうか?

今フリーランスという働き方は日本でも一般的になってきているので、フリーランスに関わる法改正は十分期待できるものではあると思います。

しかし、SESというビジネスの制限という点では、改善されるのかというと分からないのが現状です。

国力の向上や政府が掲げる目標の達成のためにもIT技術は必要不可欠で、それを支えるITエンジニアは非常に重要なポジションだと思います。

何がITエンジニアの魅力を阻害しているのか?どうすれば日本をIT大国へ導けるのか?より広い視点で判断していただき、国として関わってもらいたいと思います。

おまけ_ITエンジニアの低年収以外に多重下請け構造が生む弊害

ここまでは日本のITエンジニアの低年収という視点で、その原因となっている多重下請け構造などについて解説してきましたが、それ以外にも多重下請け構造は大きな悪影響を及ぼしていますので、簡単に解説しておきます。

ITエンジニアの低年収以外に多重下請け構造により悪影響を及ぼしているもう一つの事は、『ノウハウの蓄積』です。

そしてそれにより、DXの遅れや2025年の崖という問題にも繋がってしまっています。

ノウハウの蓄積とはどういうことかと言うと、自社に開発できる人が居ないため他社に開発を依頼しているということは、他社には開発に必要なノウハウは溜まるが、自社には溜まらないということです。

これにより、次に開発を依頼したサービスや機能の改善を行うには、必然的に前回依頼した他社に再依頼する必要があります。

それでは開発費用が必要になってきますし、仮に依頼した企業が倒産していれば別の会社に依頼する必要があり、調査から始めないといけないため余計に支払いが膨れ上がります。

実際に、これが原因でなかなかDXが出来なかったり、サービスやシステムの老朽化が進んでおり、2025年の崖という問題が発生してしまっています。

このように多重下請け構造により日本のITエンジニアの低年収だけではなく、別の場所にも影響を及ぼしています。

最後に

今回は日本のITエンジニアの低年収の原因について解説していきました。

ITエンジニア自身のスキル関係なく、年収を上げられる可能性が今日本にはあります。

ITエンジニアを目指すのであれば、給与や報酬を受け取るまでに、どういう仕組みになっているのかをしっかり把握する必要があるでしょう。

実際に日本のITエンジニアが貰っている年収と能力には大きなギャップがあることを多くの方には認識していただければと思います。